Episode002
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 女騎士を担いで宿まで向かうことが決定してから数十分後、曲がりくねった地下通路の道も、ようやく終わりが見えてきた。
 外から射し込む太陽の光はどこか淡く感じられ、薄暗い地下通路を、その絹のような優しさで満たそうとしているかのようだった。
 幻想的な光景とも形容できるそれは、しかし、暗闇から出た二人には普通に眩しく感じられるだけだった。

「目が痛ぇな……。おい、そろそろ出口みたいだぞ」

 眼にかかる光を遮るように空いた手を額の前に掲げ、反対側のグレゴに話しかけると、少し恨めしそうな声が返ってきた。

「やっとですか……。行きはあんなに楽だったというのに……」

 まあ、まさか帰りに騎士を担ぐことになるとは思ってもいなかったのだろう。多少は同情する。
 それに、この男が甲冑をつけた騎士一人を担いで、ここまで歩き続けることができたのには驚いている。
 普段は虚弱にしか見えなかったが……もしかすると、そうではないのかもしれない。
 ――やはり偽っているのか?
 これまで幾度となく感じてきたグレゴへの疑念が、そういった考えを心の底から押し上げてくる。
 その疑念を、頭を振って無理矢理どこかへと押しやってから、隣を歩くグレゴへと声をかける。

「外でちょっとくらい休んでいいぞ」

「あれ? いいんですか?」

「まあな。それに、俺は門番と話したいことがある。というより、さっきのことは話さねぇと……」

 休んでいいという言葉に、グレゴは少なからず驚いたようだった。まさか、宿まで休みなく担いで行くとでも思っていたのだろうか。
 別にそれでも構わないが……どうやら地下通路の入口からかなり奥まで進んでいたようで、騎士を抱えてここまで戻るのは骨が折れた。

「はぁ……やっぱ眩しいな」

 出口を抜けて、太陽の光に思わず目を細めてしまった。ちょうど、陽が傾き始めた頃らしく日差しも強い。
 グレゴは、いつの間に動いたのか、女騎士を全面的に俺に預けて、すぐ近くにあったベンチにへたり込んでいた。
 なるほど。あの野郎……俺が光に目をやられていた時にそそくさと移動しやがったな。

「それじゃあ、私は先に休ませてもらいますよ〜」

 少し離れた所から声を掛けてくるグレゴに適当に返事をしつつ、俺は女騎士を芝生の上に寝かせて、そのまま門番の元へと向かった。
 地下通路に入る時にも喋った入り口の門番の男二人に、先程の通路での出来事を話してやると、顔を見合わせて驚いていた。

「お前ら死ななくてよかったな〜」

 ふざけて言ったのだが、意外にも礼を述べられた。

「まったくですよ。やっぱり、命あっての物種ですからね。我々が殺される前に掃除していただいて、ほんと助かりましたよ〜」

 この門番、本能的に長寿タイプかもしれない。何よりも、生き延びることを考えて行動しそうだ。隣の門番も頷いてその意見に同調している。

「……そうだな」

 確かに、死ぬよりは生きている方がよっぽど楽しいかもしれない。
 だが、自分の命を優先して他人を見捨てた後に待つ罪悪感からの苦しみ、さらには見捨ててしまった者の幻影に恐怖することを見落としてはいけない。騎士ならば、それはなおさらである。
 見捨てた人々を、友を、大事な人を、決して忘れられることはないのだ。

「…………」

 ちょっとしたことを思い返していると、頷いていた門番が、ふと後ろの芝生に寝かせている女騎士について尋ねてきた。

「あちらの騎士は?」

 過ぎた事を考えている場合ではなかった。
 あの女騎士はさすがに隠しきれない。門番も、まったく面倒な質問をしてくれたものだ……。
 ここは上手く話して、納得してもらわなければなるまい。

「あれは、今回の依頼を手伝ってもらった騎士だ。さすがに、一人で特攻するのは命が危ないからな。誰だって、好き好んで死にたくはないだろ?」

 咄嗟に口から零れたのは嘘だった。少なくとも俺は、絶対にそうだとは言い難い。
 だが、どこも比の打ちようがあるまい。

「なるほど。やっぱり命は大事ですからね」

 そりゃそうだろう。
 誰かを守って敵諸共死んだのだとしても、それには実質何の意味もない。相手を叩き潰して、なおかつ自身は確実に生き残らなければなんら意味はないのだ。

「だが、魔物との交戦中に殴り飛ばされて気絶しちまったんだ。だから、担いで帰ってきたってわけよ。まあ、死ななかっただけマシだったんだろうがな」

「そうでしたか……。それなら、この問答はどうでもいいことだったかもしれませんね。ははは」

 つまりは、俺は疑われていたのだ。
それにしても、どうでもいいとか……咄嗟に口をついて出たとはいえ、さっきの口実を必死で考えた俺の労力を返してほしいものだ。
 ああ、どうでもいいことか。
 それよりも、今は聞いておかなければならないことがある。後で依頼の終了報告をするときにも必要だろうし、何より気になっていることでもある。

「なあ……お前らは昨日もここで見張りをしていたか?」

 唐突な質問に対して二人の門番は少し訝しげな顔をしたが、すぐに返答してきた。

「いえ、我々は今日が初日ですが……」

「なんだと?」

 もし昨日もここで門番をしていたなら、昨日の状況についても聞けるかもしれないと思ったのだが……どうやら、そうはいかないようだった。

「だから、昨日ここには別の二人が居たと思います」

 それに、今日が初日≠ニなると、昨日までこの場所に居たはずの門番はどうなったのか。
 昨日のことが分からないにしろ、門番には決められた人数が配置され、時間制か日数制で回り続けているはずである。
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