Episode002.5
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 会話を一時中断した門番の二人が見た時には、彼らの姿はすでに街の喧騒に紛れようとしていた。
 去りゆく二人の内、全身を闇色の装備で覆った人物を騎士で知らない者はいないだろう、と槍を携えた門番は考えていた。それは噂が耐えないからだ。
 彼は《隠者(ハーミット)》の二つ名で通っている人物で、今は魔物の討伐や様々な依頼をこなして金銭を稼ぐ《スレイヤー》をしているらしい。
 六年前にスレイヤーとして現れた彼だが、二つ名については《暗殺者(アサシン)》も考えられていたらしい。しかし、なぜその可能性があったのかはよく分からない。
あまりにも魔物を殺しているからか。
 いや、それは私がそう思いたいというだけであり、実際は違うだろう。
 彼のスレイヤーとしての功績は素晴らしいものであり、こなしてきた依頼の数も凄まじいと聞いている。
 だが、いくつか疑問点が上げられている。
 彼は、ここまでの力の持ち主でありながら、《ギルド》に加入していた記録がないのだ。つまり、ほとんど全ての依頼を一人で完遂してきたことになる。もちろん、Sランクと呼ばれている依頼さえもだ。
 だからこその実力なのだろうが……そんなのはまさに狂気の沙汰だ。
 それに、ギルドからの招待も断っていたと聞く。どんなに頼んでも、姿を眩ますか頑なに拒んでいたそうだ。まあ、それも随分と昔の話だが。

「ん〜〜」

 ここまで様々な情報を引き出せているというのに、名前が思い出せない。
 インパクトのある名前だったはずなのだが、それは喉元で止まって外に出ようとはしない。耐えかねて、溜まっていた息を吐き出すと、右隣の方で見張りをしていた相方に声をかけられた。

「どうした?」

 とりとめもないことだが、思い出せないと気になって仕方がない……。一応聞いてみるか。それに、門番というものはとても退屈だ。配属初日で目新しいこととはいえ、今までの巡視と比べると遙かにつまらない。

「なあ、さっきの全身闇色の装備をしていた奴の名前って何だったっけ?」

 一瞬だけ全ての動きが止まったような気がしたが、相方の唸る声が何事もなかったことを伝えた。

「ああ……あと少しなんだよな。ほら……ラン……ランディールじゃなくてさぁ……」

「お前それは昔話の登場人物だろう。ランスは……違うよな」

 くそう。あと少しなのに。

「ラン……ラング? ああ! そうか! ラングレイだよ! ヴォルグ・ラングレイ 」

「それだ! それだよ 」

 腰に剣を提げた相方は、どうやら名前を思い出せたのが嬉しいようだ。先程から何度もその名前を呟いている。きっと、忘れてしまわないようにだろう。
 かくいう私も嬉しいのだが……。

「他の情報は簡単に出てくるのに、どうして、名前だけがこんなに思い出せないんだろうか」

「それもそうだよなぁ……。まあ、二つ名で呼ばれることが多いからじゃないか?」

「なんだか、それは悲しいな」

 意図せず自分の口から漏れたのは、そんな言葉だった。この言葉を聞いた相方も、そうだな……、と呟いただけで他には何も言わなかった。
 ふと地下通路の奥の闇に目がいってしまったが、すぐに煌々と芝の輝く広場へと目を移す。
 ほんの少しだけだが、ヴォルグ・ラングレイという人物が生きている世界を見てしまったかのような、そんな感覚を伴う。
 ――恐ろしい世界だな。
 そう思ったのは本心からだ。しかし、自分も同じ場所に立っているのではないか。そういったことを考えてしまい、恐ろしくなる。
 それを忘れようと無理矢理に他のことを考えたり、頭を軽く振ったりする。そんなことをしていると、相方が笑いながら問いかけてきた。

「んくくく。さっきから頭を振ったり溜め息をついたりして、お前はいったい何をしてるんだ?」

 どうやら周りから私を見ると、さぞおかしなことをしていたらしい。そう認識すると恥ずかしくなる。

「い、いやなんでもない。こう暇だと色々と考えちまうんだよ。色々とな」

「はっは、そうかい」

 取り繕うように言うと、相方は少し笑ってからそう答えた。
 それにしても、ヴォルグ・ラングレイについては驚く話が多々ある。Sランク依頼の話もそのひとつだ。
 そんな彼は、今までに完遂した依頼の数もさることながら、二年ほど前から受けている依頼の内容も凄まじいようだ。
 どうやら、彼が率先して引き受けているという依頼の内容は、どれも魔物討伐の依頼のようで、その魔物のどれもがただの魔物ではなく、ランクA以上の魔物であるらしい。
 ランクAとは、一介の騎士がだいたい二十人で討伐するような魔物であることを示す。まあ、騎士の中にもそういった魔物を一人で倒す者はいるが……あれは例外だろう。

「果てしないな……」

 宛てなく呟いた言葉は、図らずも右隣の相方の耳へと入っていたらしい。また声をかけられた。

「何がだ?」

「いや、スレイヤーとか騎士とかについて考え出すと、終わりがなさそうじゃないか」

 実際、これまでも色々と考えてきたが、今なお思考は深まるばかりだ。仮説、仮定、そういったものが積み重なり続ける。

「そりゃそうだろうよ」

 間を置いてから、そう言葉が返ってくる。
 その返ってきた言葉に対する反抗心なのかどうなのか、それでも、と食い下がる自分がいた。

「けどさ……」

 いや、食い下がるだけではなく、何か納得のいく……理解を得られる答えが欲しいとさえ思っていた。

「この世界は俺たち人間が理解するには複雑すぎる。スレイヤーや騎士についても違わずな」

 そんな答えはとうの昔……まだ成人する前から出ている。それに対して、しかし、と切り出そうとした時、相方が話を続けた。
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