Episode003
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 魔物との交戦があった地下通路東入口を離れてから数分後、俺とグレゴそして女騎士の三人は、様々な商店の立ち並ぶ中央通りへと来ている。まあ、ちょっとした理由で未だ目を覚まさない女騎士は、今は俺が担いでいるわけだが。
 中央通りには露店や道具屋などだけではなく、武具屋や鍛冶工房――この二つは武器屋や防具屋とも言われたりする──などもあるので、自分以外のスレイヤーなどもよく見かけられる。
 他のスレイヤーがいると分かるのは、装備の所為もあるが、装備の一部に、スレイヤー達が掲げる特有の風や水が流れるような模様が入っているからだ。色は決まっておらず、黒や桃色などもある。
 俺の服には、上半身は紫色の模様が背部から両手の甲まで入れられている。下半身は、紫色の模様が側面に走っている。黒衣を纏っているのもあり、黒衣にも同じ色で背部から両手の甲まで紋様が入れられている。
 俺だけでなく、スレイヤーの人間はだいたい自身の持つ装備には、すべて紋様を入れていることが多い。
 それにしても、この通りは目移りしてしまうものが多い。

「なあ、グレゴ。お前まさか、いつもこんな賑わいの中にいるのか?」

 気になって隣を歩く自称商人に聞いてみると、すぐに答えが返ってきた。

「いつもじゃないですけど、だいたいはこんな賑わいの中にいますよ」

 そりゃそうか……。
 先ほどから、この通りの賑わい様には驚かされている。露天商と話をつけているスレイヤーもいれば、今晩の食卓に並べる食材を調達に来たのであろう主婦まで、あちらこちらに居る。

「はぁ……」

 人酔いしそうだ。
 いつもは、こんな通りに立ち寄ることはないため、余計にこの通りの活気に気圧されてしまいそうになる。

「いや〜凄い活気ですね! あ、お久しぶりですお久しぶりです〜」

 隣を歩いているグレゴは何のことなく喋り続けている。それに、先ほどから様々な商店や露店の主らしき人物と挨拶を交わしていることから、ここで顔が利くことも見て取れる。

「確かに凄い活気だ……それよりもお前、この辺りの知り合い多いんだな」

「そりゃそうですよ。商人なんですから」

「またそれか」

 こいつの口癖みたいだが……なにか理由でもあるのだろうか。そんなことを考えていると、不意にグレゴから声をかけられた。

「もしかして活気に飲まれました?」

「まあ……な」

 それもあるのだが、何よりも道行く都民が向ける興味心を含んだ視線が痛い。
 女騎士には、通りに入る前にフード付きコートを被せたから、あまり目立たないと思っていたのだが……何よりも自分が目立っているようだ。

「俺は今まで好んで路地裏を通っていたからな。ここまで注目されることに、あまり慣れてないだけだ」

 そうは言ってはみたものの、不安になってくる。本当に注目されていなかったのだろうか……。いや、路地裏では目立つ要素なんてないはずだ。注目されるわけがない。

「まあ、路地裏ならともかく、ここでその装備なら目立つでしょうねぇ」

 俺の黒一色の装備を見てグレゴが声を返してきた。灯台下暗しとは、あるいは今の状況を言うのかもしれない。
 周りに居る他のスレイヤーと比べても、俺以上にこの通りで目立ちそうな奴は居なかった。

「仕方ねぇだろ。この装備でこの色が一番良いし気に入ってるんだからよ」

「なに、それを悪いとは言ってませんよ。それに、その装備じゃないと締まらないでしょうしね」

「まあな」

 スレイヤーになった時点で、この装備と服装にすることは決めていた。なぜなら、それが自分のスタンスに合っているからだ。この点においては、今さら指針を変える必要性はないと言っていい。
 歩き続けながら装備のことをあれこれ考えていると、グレゴが話を振ってきた。

「それにしても、あなたが先刻の門番二人に女騎士を預けなかったのは驚きですね」

 むしろ、こっちが驚きだった。

「何故だ?」

 別におかしいところは無いだろう。ただ、疑問に思われる点があったとすれば……。

「だって、あの門番二人にその騎士さんを預けてしまえば、楽できたじゃありませんか」

 まあ、この点だろう。
 彼らに預けなかったのに理由はある。だが、それを話すかどうかは俺次第だ。

「なぜ預けなかったのか知りたいのか?」

 とりあえず尋ねてみたが、こんなことを聞いてくるくらいだから、返ってくる返事には検討がついていた。

「もちろん。そして、私を納得させてくれる理由だと、なお良いのですがね」

 こうなっては、答えないというわけにはいかないだろう。別に教えない理由も無い。
 背負った女騎士がまだ眠っていることを確認して、ゆっくりと話し始める。

「彼らに女騎士を預けなかったのは、他者に預けるのを危惧したのと、女騎士に尋ねたいことがあったからだ」

「え……それだけですか?」

 簡潔的に話したのがよくなかったのだろうか。教えてやれることはすべて教えてやったというのに、どうやらご不満のようだ。

「仲間なんですから、もちっと教えてくれてもいいじゃないですか。まったくケチですねぇ」

 仲間の部分をやけに強調して発音してきやがった。それに、俺がまだ何かを隠していることが前提で話が進んでいる。これはなんということだ。
 それにしても、こいつにだけはケチと言われたくなかったのだが……今は何も言わないことにしよう。何を聞いたところで、商人ですから、で押し通られるような気がしてならない。

「ま、お楽しみにしとけ」

「ん〜そうしておきますか……」

 悩んだようだが、後のことは、とりあえずお楽しみにしておいてくれるようだ。まあ、お楽しみがあるかどうかは俺自身も知らないわけだが。
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